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『ケファルの谷』~タタル族~

2006年09月04日 11:11

屈強な肉体を持った戦士・・それがタタル族である。

褐色の肌、グレーの瞳、夕日に映える赤き髪。

赤い髪のことを血に染まった髪だと恐れる者もいるが、
 理由もなく襲い掛かってくる訳ではない。

タタルの民は、誇りを大事にしている。

谷を神聖なものと想い、守っていくことを誓っていたし、それはアスタの民もまた同じ。

共に谷を守ろうと・・・、だがその思いも虚しく、タタルの集落は惨憺たる光景だった。

焼け焦げた瓦礫と住まいであったはずのテントの切れ端には、血がこびりついていた。
死後何日も経った様な遺体もあった・・・。

行き場のない怒りが込み上げてくる。

「今は何もしてやれないけど、事が済んだら必ず・・。」

祈りの印を遺体に捧げ、足早に進む。

谷を、今、救わなければ、もっと被害が増えるだろう。
 残された時間が少ないことを、道すがら思い知らされた。

実体のない曖昧な状態だったはずのガルムが4本の足で確かに大地を踏み鳴らし、
しきりに獲物を探している姿を見つけたからだ。

無意識のうちに、私は走り出していた。

剣の柄を握る手に強い力が込められる、レーヴィルが静止させようとなにか叫んだが、
私の耳に届くことはなかった。


短く息をはくとほぼ同時にガルムの腹を目掛け下から切り込んだ、
 ところがガルムがそれに気づくのが早かったのか、跳躍して見事にかわし、
着地すると即座に襲い掛かってきた。

近距離で見る赤い牙は、毒を持っているかのように怪しく輝いていた。

その牙が、的確に私ののど元をかき切らんと迫り来る。

私は焦りもせず、初撃の体制をうまく利用し、回転を加えた攻撃を繰り出した。

再びガルムが、技に気づいたのか、空中で体を捻り私の剣技をかわすと、
距離を保って大地に降り立った。
 分が悪いと見込んだのか、仲間を呼ぼうとする仕草を見せた。

私は、躊躇もせず、持っていた剣をガルム目掛けて投げた。

ガルムが歯をむき出しにして笑った様にも見えた。

飛んできた剣を、軽々とかわし、仲間を呼ぶことを忘れ、再び襲い掛かってくる。

私の数歩手前で飛び上がるのを、確認すると、隠し持っていた2本の短刀を、
 ガルムの目でも捉えられない速度で投擲した。

銀色の光の矢の様に、2本の短刀が深々とガルムの腹に突き刺さった。

今度は私が跳躍した。

ガルムの腹にピタリと迫ると、2本の短刀を体の外側に捻りそのまま横に薙ぎ、
 虫の息とかした、ガルムの体を蹴り上げた。

ガルムの体は、谷の側面に打ち付けられ、動かなくなった。


周囲が途端に静寂に包まれた。


その静寂を破ったのはやはりレーヴィルであった。
「すごいっ!あんたこんなに強かったんだな!
 タタルの戦士長並の強さか・・・いや、それ以上の強さを持っているんだな」

恐れ入ったという表情のレーヴィルに、首を横に振るフルグラーム。
「剣の技のほとんどは、陛下に教わったんだ。
  陛下に比べれば、私など、まだまだだよ。」

全盛期の陛下の活躍を知っているだけに、謙遜するのも頷けるが。

純粋に褒め称えてくれる、レーヴィルが弟の様に思えなんだか嬉しかった。

「さっ、先を急ごう」

レーヴィルの指し示す方向には、この荒廃とした風景とは、
不釣合いな建造物が立っていた。

広い円形の建物の辺りに、規則正しく建造物を囲むように、
柱が並び。その上に、黒炎がゆらゆらと揺らめいていた。

問題は、その建物が『何で』できているかだった。

「黄金か・・?」

圧倒されたように、そうつぶやいたのはフルグラームこと私だ。

レーヴィルはうなづいたが、表情は険しかった。

「タタルで金は取れないはずなのに・・・。」

確かに、この谷で金が取れた、などという話は今まで聞いたことがなかった。

「確かめるには、中に入る必要があるようだな・・、とはいえ進入経路は一つか・・・。」

近づいてみて分かったことだが、ガルムが周囲にはいないということ、
 入り口が正面一つだけということ・・。

「真上は無理か・・・、見つかって打ち落とされかねないな・・・。」

黄金をバックに黒い点が上っていればすぐ気づかれるのがおちか。

周囲にガルムがいないのが気がかりだったが、正面きって突撃するしかないようだ。

「レーヴィル、ここに 「居てくれってっていうのは無しだぜ。ここまで来て、
置いてけぼりは御免だね。」

言わんとしていた事が分かったのか、先を越されてしまった・・・。
とはいえ、ここに残すというのも、無理な話だった、
ガルムが周囲に居ないのは今だけかもしれないからだ。

私は、仕方なく、レーヴィルを連れて行くことにした。

「この短剣を持っているといい、いざと言う時役に立つだろう。」

先ほどの2本とは別の、腰に挿していた、金の柄の短剣だった。

私は、静かに、諭すように言った。
「私にもしもの事があったら、迷わず逃げると約束してくれ。
 陛下ならきっと君に力を貸してくださるはずだ。」

レーヴィルの目が私を射るように見つめている。
 根負けするわけには行かないので、私も見つめ返した。

無言の主張が繰り返されたが、やがてレーヴィルが折れた。
「あぁ・・約束する。 
  でも、もしも、なんてことが起きないように全力を尽くせばいい話だろ?
    王様に頼るのは、本当にそうなった時でいいさ。」

肩をすくめ、そう笑ったが、その瞳にはなにか、決意が見て取れた。


                            「ケファルの谷」~タタル族~編  終わり



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